突発的に書きたくなりました。

 わたしは好き、なのだ。言葉にしたことも、態度で表したこともないけれど、この人のことを物凄く。大体、出会ってからもう既に5年が経ち、今までとても男と女とは思えないような付き合い方をしてきたのに、今更どうしてそんなことが伝えられようか。好きだとか、愛しているだとか、そんな大切な言葉たちでさえ、この人の前ではどうにもとてもちっぽけなものに思えてしまう。それでも、たまらなく愛しい。たまらなく会いたい。会いたい、と言ったって、会いに来てくれるような人ではない。淋しい、と言ったって、自分の時間を削ってくれるような人でもない。それに今更、そんな女々しいことが言えるはずもない。わかっている。わかってはいるのに、会いたくて淋しくて好きすぎて。薄暗い部屋の中、散らかっているフローリングから避難してベッドの上、一人ボタンを押してみる。出ませんように。お願いだから、出ませんように。物音一つしない部屋で、ただ呼び出し音と、やけに高鳴る心臓の音が静かに響く。これ以上鳴らしたままでは、わたしの心臓が止まってしまう、と電話を切ろうとしたその時、聞きなれた声が耳に届いた。

「もしもし、どうしたの?」

 思いもがけない出来事に、わたしは言葉を返すことが出来ずにただ、携帯電話を掴んでいる右手が震える。何か言わなければ、何か言わなければ、と絞り出した一言は、気の利かないわたしの性格そのもののようで嫌になる。

「何してるかなと思って」
「テレビ見ながら煙草吸ってたけど」

 何かを変えたいと思って電話をかけたはずなのに、何も変えることが出来ずに、わたしはただ適当に相槌を返す。

「何か、今日の鈴木おかしくねぇ?」
「そ、そうかな? そんなことないよ」
「いや、絶対おかしい」

 目的を持つ電話と言うものは、何と大変なものであろうか。行方不明になっているらしい流暢な言葉と太い声は一向に見つからず、たどたどしい言葉とか細い声だけが、唇から零れゆく。会いたいと言ったら笑うだろうか。淋しいと言ったら呆れるだろうか。好きだなんて言ったら、いったいどんな答えが返ってくるのだろう。

「1番と2番と3番、どれにする?」
「ん? 何それ」
「いいから、答えてみて」
「じゃあ、3番」

 ビンゴだ。なんて的確なのだろう。好きも愛してるも通用しないかもしれない。それでも一番、言いたくて、言えなかった言葉だ。

「あなたのことが好き」

 一言呟いたあと、返事も聞かずに電話を切った。電話はすぐに、かけ直されてきた。

「何、言い逃げ?」
「そのつもりだったんだけどね」
「考えたこともなかった。けど、考えとく」
「そう」
「いい答えを期待しといてくれると助かる」
「何それ」
「まぁ、そういうことだから」

 わたしの質問にも答えずに、今度は、一方的に電話が切られた。5年かかった。けれど、やっと一歩進めた。二歩目を楽しみにしながら、わたしは携帯を放り投げ、ベッドに横たわった。見慣れた自分の部屋が、いつもと違って見えた。